外国法人による日本法人株式の譲渡に係る譲渡益に対する課税
2015.09.25
Taxation
Q
日本で株式会社の形態で小売業を営んでいます。その株式会社の親会社をシンガポールまたは香港に設立しようと思います。親会社は発行済株式100%を保有しますが、いずれは全て第三者に譲渡したいと思います。
シンガポールまたは香港に設立した親会社が株式を譲渡した場合、日本において課税されるのでしょうか。また、シンガポールおよび香港に親会社を設立した場合の譲渡所得の取り扱いについて教えてください。なお、日本法人は不動産を保有しておらず、親会社は日本に恒久的施設(P.E.)を有する予定はありません。
A
このケースでは、シンガポールに親会社を設立した場合は日本において譲渡所得が課税(税率15.315%)され、香港に親会社を設立した場合は日本での譲渡所得課税はなしとなります。
シンガポールも香港もキャピタルゲインに対する課税はありませんので、シンガポールまたは香港では課税の対象とはなりません。
国内法では、一般的に日本にP.E.を有さない外国法人が日本法人の株式を譲渡した場合、原則として日本側では課税されないとしています。ただし、一定の要件を満たした場合には日本側でも課税される場合があります。
また、日本が外国法人の所在地国と租税条約を締結している場合は、国内法よりも租税条約が優先されます。
以下、内国法、租税条約の内容について説明します。
1)法人税法
法人税法上、日本にP.E.を有さない外国法人は国内源泉所得が課税対象となります。
事業譲渡類似株式の譲渡による所得(法令187①三ロ)に該当する場合、株式等の譲渡について日本国内で課税対象となります。
①譲渡年又は譲渡事業年度終了の日以前3年内のいずれかのときにおいて、内国法人の特殊関係株主等が、その内国法人の発行済み株式等の総数の25%以上を所有していたこと(所有株数要件)
②譲渡年又は譲渡事業年度において、その譲渡を行った非居住者等を含む内国法人の発行済み株式等の総数の5%以上に相当する株式等の譲渡をしたこと(譲渡株数要件)
内国法人の特殊関係株主等とは、内国法人の株主等および株主等の同族関係者その他これに準ずる関係のある者をいいます。
国内法である法人税法によれば、当該法人の株式を売却した場合の譲渡益に対して法人税が課税されることになります。
この場合の税率は復興特別税を含め15.315%の分離課税となります。
2)日星租税条約
第13条 譲渡所得
4項(b) 一方の締結国の居住者が他方の締結国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締結国において租税を課することができる。
(i) 当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む。)の数が、当該課税年度又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25%であること。
(ii) 当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも5%であること
5項 1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては譲渡者が居住者である締結国においてのみ租税を課することができる
このケースでは、当該法人の親会社がシンガポール法人であり、当該法人の株式を全て売却した場合となるので、その譲渡益については、第13条4項(b)が適用され日本に課税権があります。
譲渡株式数が発行済み株式数の5%未満である場合は課税権はシンガポール側となります。
仮に5%未満を売却した場合は、課税権はシンガポール側となります。シンガポールではキャピタルゲインに対する課税はありません。
3)日香租税条約
第13条 譲渡所得
6項 1から5までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締約者においてのみ租税を課することができる。
1項から5項には、不動産の譲渡、金融機関の株式の譲渡、P.E.の事業用資産を構成する財産の譲渡、国際運輸に運用する船舶・航空機の譲渡について記載されています。
当該法人の親会社が香港法人であり、当該法人の株式を売却した場合の譲渡益については、香港に課税権があります。
香港ではキャピタルゲインに対する課税はありません。
※上記は2015年9月現在の税制に基づいておりますが、その正確性、完全性、その他について保証申し上げるものではありません。上記情報を利用される際は必ず専門家にご相談ください。情報をご利用された結果発生した損害について、一切の責任を負いませんので、予めご容赦ください。